連載「がんの休眠療法」第2回 がんと“引き分け”なら死なない だって今生きているから|東京都中央区銀座並木通りクリニックは内科・外科・呼吸器科の一般診療とがんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)中心のクリニックです

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連載「がんの休眠療法」第2回
がんと“引き分け”なら死なない だって今生きているから

休眠療法の一般的評価は?

前回休眠療法を簡単に紹介しました。副作用がほとんどない身体に優しい抗がん剤治療なのに、エビデンス(根拠)の確立が弱いために、“非標準”抗がん剤治療のレッテルを貼られており、患者さんが希望されても行ってくれる医療機関がほとんどないこともお話しました。

現実は、
「何?その抗がん剤の使い方」
「効くわけないよ、そんな少ない抗がん剤の量で」
「そんな治療したら、責任持てないよ」
「変な治療するなら、もう来なくていいですよ。他に行って!」
「空(カラ)抗がん剤ならやらないほうがマシだよ」等々……。

患者さんが主治医に休眠療法を申し出たときに、多くの医療機関から返ってくる反応のほとんどはこんなモノです。本来、休眠療法を実践したことのある大病院の医師はほとんどいないはずなのですが、やったこともないことを頭から完全否定です。そういう私も以前はそうでした。
「休眠療法?ナンじゃ、それ!?」

大病院の勤務医として働いていた頃、外科医としての傍ら行っていた抗がん剤治療は標準量以外で行ったことはありませんでしたから……。私にしても休眠療法に対する評価はそういったモノでした。ところが、休眠療法の提唱者である高橋豊先生(千葉大学大学院医学研究院 がん分子免疫治療学教授)(注1)に教えていただきながら、実際に自分でやり始めてみて正直ビックリです。目からウロコが落ちました。世の中、教科書に書いてないことはいっぱいあります!今では、効くとか効かないとかエビデンスがどうのとか言ってないで、とにかく1回やってみたら、っていう感じです。

百聞は一見にしかず、デス。

誌面の関係上、少しずつしか紹介できませんが、悪しからず。

乳がんが再発「2度と抗がん剤治療はしたくない

まずは胸腔内再発・がん性胸水で再発した乳がんの患者さんを見てみましょう。患者さんが最初に右乳がんと診断されたのは7年前です。手術と術後化学療法を行った後は特に再発の徴候もなく経過していました。

ところが、ある日息苦しさを感じたため胸部単純写真を撮ったところ、ビックリ仰天です。
左胸に胸水が溜まり、胸部写真上真っ白になっていました(図1)。乳がんの再発です。

何はともあれ入院してもらい、胸水を抜いて左肺を膨らませ、まずは呼吸苦症状の改善を行いました。ここで、胸水を抜いた後の胸部CTを見て、またビックリ。左胸腔内にモコモコと盛り上がるように腫瘍が再発していたのです(図2)。

少なくとも、4カ月前の胸部単純写真では何もありませんでしたから、この間にスイッチが入ったかのごとく急にがんが増殖してきたようです。このような病態では、一般的には抗がん剤治療が治療法として選択されます。

さて、治療を進めるにあたり、実はこの患者さんは以前に行った抗がん剤治療の副作用でとてもつらい思いをしたため、2度と抗がん剤治療はしたくないと考えていたのです。患者さんに胸腔内再発の話をし、治療方針について相談しましたが「標準抗がん剤治療だけは絶対やらない」と決意は変わりません。普通、標準抗がん剤治療をやらないと言った時点で、

「それなら、治療はありません」
「あとは緩和医療です」
と、元気な患者さんが簡単に見捨てられてしまいます。

患者さんは同じ抗がん剤治療でも副作用がなく、日常の生活の質を維持できるのなら、治療を受けてもいいとのことでした。そこで、がんとの引き分けを目指した副作用のほとんどない休眠療法をやりましょう、となりました。

休眠療法で乳がんと仲良く9年目

さぁ、治療開始です。まずは週1回の間隔で、ファルモルビシン10mg/bodyとタキソテール20mg/bodyの投与を行いました。これは乳がんに対する休眠療法のレジメンとして、比較的手応えを感じている組み合わせです。ファルモルビシンは標準量の10分の1、タキソテールは5分の1くらいとなります。

薬剤をもう少し増やそうとしましたが、吐き気が強くなりそうだから止めて欲しいとのことで、この量を継続投与量にしました。この投与量は、大病院で標準抗がん剤治療をやっている医師には信じられない、というより治療としてあり得ない空(カラ)抗がん剤投与量です。

ところで、この低量の抗がん剤で吐き気がするという患者さんに標準量の抗がん剤を使用すると、どうなってしまうのでしょうね……?

さて、休眠療法開始から1年以上が経ち、闘病生活は9年目に入りました。休眠療法を開始してから、左胸腔内のモコモコした再発病巣は画像上まったくといっていいほど変化がありません。腫瘍マーカーのCA15‐3もほぼ横ばいです。4カ月の間に急に胸腔内に増殖してきた再発乳がんですから、休眠療法をやったことのない医者が言うように、休眠療法が空(カラ)抗がん剤療法で意味のないものであったなら、この1年の間に病状は進行し続け、たぶん患者さんはすでに鬼籍に入られているでしょう。1年以上経っていながら、がんの増殖がほとんど見られないこの現象は、少量のファルモルビシンとタキソテールが見事に作用して、がんと引き分け状態を生み出していると考えるのが自然です。

さて、この患者さん、副作用はまったくなく元気いっぱいです。
彼女を見て、抗がん剤治療をしているなんて、知らない人は夢にも思わないはずです。
このままさらに2年引き分けなら2年後も元気、5年引き分けなら5年後も元気です。

だって、今元気だから、「がんは引き分けなら死なない。今生きているから……」デス。

月刊誌「統合医療でがんに克つ2008.8vol.2」より 


1. 本文中の高橋豊先生の経歴は雑誌掲載時のものです。
2013年11月現在の経歴は、化学療法研究所附属病院・外来化学療法部長
国際医療福祉大学教授となります。

月刊誌「統合医療でがんに克つ」連載 がんの休眠療法

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