連載「がんの休眠療法」第10回 腫瘍マーカーと休眠療法(後編)|東京都中央区銀座並木通りクリニックは内科・外科・呼吸器科の一般診療とがんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)中心のクリニックです

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連載「がんの休眠療法」第10回
腫瘍マーカーと休眠療法(後編)

横ばい型 ― イメージは下り坂の自転車のブレーキ ―

もう1つ、横ばい型を見てみましょう。70歳代の肺がん・左副腎転移の患者さんの腫瘍マーカーCEAの推移です。休眠療法をTS1とシスプラチンという薬剤で開始しましたが、今ひとつ値が落ち着かなかったので、シスプラチンをジェムザールに変更しました。腫瘍マーカーのCEA(正常値:5.0ng/ml以下)は下 がり始め、30~40ng/mlで横ばいとなりました。

画像上、肺がん原発巣も副腎転移巣も著変なし、引き分けと判断しました。抗がん剤投与後の2日目に軽い吐き気を感じるものの許容範囲です。ここで、CEAを正常値にしてやろうと色気を出して、薬剤投与量を増やすことはありません。腫瘍マーカーは低いにこしたことはありませんが、必要以上に神経質になる必要はありません。その後、腫瘍マーカーが徐々に再上昇し始めましたが、ジェムザールをイリノテカンに変更して、再度引き分けキープ状態としました。

ところがある日、脳梗塞のため人院し、抗がん剤投与が中断したとたんに突然腫瘍マーカーがポンッと跳ね上がります。あわてて投与を再開すると、腫瘍マーカー値は元に戻りました(図1)。

がん・心臓病・脳卒中は3大疾患と言われますが、どれも人間の″老化現象″として捉えられるため、お互いが併存したり、既往があったり、治療中に発症したりすることはそう珍しいことではありません。

この方の経過で見てみると、休眠療法というのは下り坂での自転車のブレーキに似ています。がんの増殖に対してキュッキュッキュッとブレーキをかけるイメージです。脳卒中という別の病気のために、ブレーキを外したとたんに動き始めたという感じです。副作用は少なく、がんの進行にブレーキをかけることは人生の「よい時間を確保する」につながります。休眠療法の目指す、がん治療の落としどころはまさにココです。

下降型 ― 思ったより効いたぞパターン ―

引き分け狙いの休眠療法ですが、予想以上に効いた!というのも結構あります。図2をよく見てください。腫瘍マーカーの桁がスゴイです。CAI9-9が43万U/dlです。私が経験した患者さんのなかでも、この値はピカイチです。

50歳代の膵臓がんの患者さんで、開腹手術を行いましたが腹膜播種というがんがお腹のなかにバラバラとばらまかれている状態のため、そのままお腹を閉じることになりました。

その後、ジェムザールという薬剤での抗がん剤治療を行ったところ、副作用でヘロヘロになり治療の継続ができなくなりました。腹水でお腹が張って食事が摂れなくなりました。体重はどんどん減っていきます。主治医からは、「これ以上治療法はない」と緩和医療を勧められたところを、縁あり当院を受診されました。来院時、まず外来で腹水を1000ml穿刺し、マイトマイシンという抗がん剤を腹腔内に2mg/body注入しました。

抗がん剤の少量腹腔内投与は休眠療法変法との認識なのですが、がん性腹水に対して効くときは結構効きます。この量のマイトマイシンなら副作用はまずありませんので、がん性腹水貯溜症例に対して1度は試みていい方法です。効果を認める症例では3、4回目の腹腔内投与から、明らかに腹水貯溜スピードが遅くなります。がん性腹水がなくなった患者さんもいます。

この患者さんは、加えて、以前標準量の使用では副作用でヘロヘロになったジェムザールを今度は200mg/body/週で開始し、200~400mg/body/週と1回投与量を標準量の1/7~1/4くらいで維持しました。今度は、抗がん剤の副作用はほとんどなく、体調も良好です。

しかも、43万U/dlあった腫瘍マーカーのCAI9-9の値は、測定するたびに下がっていき、5カ月後には4万4200U/dlと約10分の1になりました。しかし、CAI9-9の正常値は35U/dl以下ですから、それでもまだかなり高値です。

さて、ここで、
「腫瘍マーカーの検査するのを止めます」
となりました。

今まで順調に腫瘍マーカーが下がってきて10分の1になった。体調もすこぶる良い。次の検査で腫瘍マーカーが少しでも上がっているとガッカリしてしまう。腫瘍マーカーの値に振り回されるのは止めにしたい、との申し出です。

「良いことだ」と思いました。治療方針が大きく変わらないのなら、腫瘍マーカー値を知る必要はない。とすれば、それはアリです。

「腫瘍マーカーだけではナンとも言えないから気にしないように」

と言っても、やはり患者さんは気になるものです。正直、腫瘍マーカー値ほど精神衛生に悪いものはないのではないかと思っています。チョットした数値のアップ・ダウンにどうしても一喜一憂してしまいます。値が少しでも下がっていればルンルンですが、上がっていると気分は悪くなります。私は治療を進めるうえで、どうしても腫瘍マーカーを測定することが必要となりますが、

「数値を知りたくない方は申し出ください」

としています。知りたくない方に、無理に値を教える必要はありません。

まとめ

さて、3回に分けて腫瘍マーカーについて休眠療法と絡めてお話してきましたが、多少は腫瘍マーカーの理解・整理のお手伝いになりましたでしょうか?

先日、「がん治療はダラダラやっていれば良いことがある」と、当院で休眠療法を受けられている患者さんが言われていました。確かに、がん治療において患者さんの手持ちのカードは種類が多いほどいいわけで、ダラダラ時間を稼いでいれば、新しい治療法が出てきたり、新薬が保険認可されたりと、がんと闘う弾(タマ)の種類は増えてきそうです。ちなみに、その患者さんの腫瘍マーカーは現在ダラダラ横ばい中です。

前回の復唱です。

「腫瘍マーカー、高くてもいいじゃないか、横ばいなら。
腫瘍マーカー、高くてもいいじゃないか。元気なら」

腫瘍マーカーに関してはこんなところかな……。

月刊誌「統合医療でがんに克つ 2009.4 vol.10」より

月刊誌「統合医療でがんに克つ」連載 がんの休眠療法

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