連載「がんの休眠療法」第12回 高齢者と休眠療法(前編)「人生50年」の時代から……|がんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)と内科・外科・呼吸器科の銀座並木通りクリニック

がんと共存して長生きを

連載「がんの休眠療法」第12回 高齢者と休眠療法(前編)
「人生50年」の時代から……

織田信長が好んだ“敦盛”の「人生五十年。下天のうちに比ぶれば夢幻のごとくなり。」の件(くだり)にもあるように、日本人の寿命は50年でした。しかもそれは遠い音の話ではなく、つい最近の20世紀前半まで人生50年が普通だったのです。

その後、日本人の平均寿命は右肩上がりに上昇し、今や男性79歳、女性85歳と日本は世界一の長寿国になりました(図1)。

その要因としてはいろいろ挙げられますが、医療の歴史推移のなかで重要な役割を担った2枚看板として「抗生物質」と「輸液」が挙げられます。ともに、その発展・普及は第2次世界大戦終戦以降(1945年以降)になりますが、抗生物質の開発は国民病・亡国病とまで言われた結核やその他肺炎などの感染症の克服に貢献し、輸液療法の進歩は経口摂取できない病態でも水分・カロリーの補給をはじめさまざまな病態への対応を可能としました。

今日、実地医療の現場でもこれらは中核を担う不可欠の治療手段で、この2つがなければ臨床医の多くは“岡に上がった河童”になります。

さて、その日本人の平均寿命が延びるとともに、クローズアップされてきたのが“がん”という病気です。現在、日本人の3人に1人ががんと言われ、昔の結核に代わり国民病と言われ始めており、いずれ2人に1人ががんの時代が来ると言われています。

ここで、がんには加齢に伴う老化病、タバコやストレス、生活習慣などが原因となる環境病、生まれ持っての性質による遺伝病の3つの側面があり、それぞれが単独もしくは複合して、がんの発症に関わっているとされます(図2)。

正常細胞の遺伝子がこれらの要因によりダメージを受けると、細胞の設計図がおかしくなり、正確に生命の情報が伝えられなくなった壊れた細胞が出現します。遺伝子の傷ついた細胞は修復されたり、修復が不可能な場合はそのまま死滅してしまうように生体内でプログラムされており、さらに身体の免疫系が異常細胞を認識して処理したりといったメカニズムが働いていますが、これらいくつものチェックシステムをかいくぐって、生体内に定着した生命を脅かす遺伝子の壊れた細胞、それが“がん細胞”です。

ここで、遺伝子の劣化や損傷は、ヒトが生物として年齢を重ねていく以上、避けられないものです。年齢を重ねていくに従い、顔のシワが増え、肌の張りがなくなり、体力も少しずつ落ちてきます。老眼が進み、膝や腰や肩は痛い……など、人体を形成する細胞も同様に老化が進みます。遺伝子の壊れは、その老化とも密着しているため、がんの“老化現象”としての側面は非常に大きいのです。ですから、がんの罹患率は年齢とともに確実に上昇していき、65歳以上を一般に“がん年齢”と言います。がんは、人間が生物であるがゆえの宿命ともいえる病気と捉えられます。

医学の進歩ゆえに生物の宿命としてのがん

つまり、人生50年の時代は、がん年齢と言われる65歳以上まで生きることができない、つまりがんになる前にみんな他の原因で亡くなっていました。昔の人はがんを岩のように硬く触れるため“岩(がん)”と呼んでいたようですから、その存在は知られていました。しかしながら、当時は、がんよりも結核などの感染症のほうがヒトの健康に関しては逢かに大きな問題だったのです。

さて、国立社会保障・人口問題研究所によると、2010年の日本の65歳以上(がん年齢)の人口比率は約22%ですが、2050年には35%を超えて、特に70歳~90歳の年齢層が増えてきます。

そうなると今後、がんになるヒトは間違いなくもっと増えます。がんは感染症ではありませんから、風邪やインフルエンザのように、流行ったり、他人に染るということではありません。がんになる年齢層が増加する(お年寄りが増える)ため、必然的にがん罹患数も増えるという単純な話です。医学の進歩でヒトの寿命が延びたがゆえに、がんという病気が身近になってきた。ある意味、皮肉なことです。

ここで、がんが“老化”となればアンチエイジング(抗加齢)などのノウハウが花盛りになりそうですが、私はアンチエイジングを煽るつもりはまったくありません。実は、酒・タバコは一切やらない、野菜や果物を中心の食生活を送り、塩分控えめ、メタボにならないよう毎日適度に運動し、ストレスを溜めないなど模範的な生活習慣を送ったとしても、がんになる確率を半分くらいにすることしかできません。キチンとした生活をしていればがんにならない、というのは嘘です。確率は減りますが、がんになるときはなります。人間の力ではどうしようもありません。がんになるのかならないのか“神のみぞ知る”です。

医学の進歩による寿命の延長により身近になったがんという病気は、“老い”というヒトの生物としての宿命に寄り添うように存在しているため、今後、高齢化社会を迎える日本において、ダレにでも起こりうる病気ということです。

さて、次回(「高齢者と休眠療法(中編)」)も、高齢者のがん治療について少し踏み込んで見てみたいと思います。

月刊誌「統合医療でがんに克つ 2009.6 vol.12」より

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