特集「がんの免疫療法」-「自家がんワクチン療法」の、最新の知見と展望-|がんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)と内科・外科・呼吸器科の銀座並木通りクリニック

がんと共存して長生きを

特集「がんの免疫療法」
「自家がんワクチン療法」の、最新の知見と展望
がん細胞の多様性に対応する治療法

昨年(2011年)11月19日、第8回がんワクチン療法研究会学術集会が東京女子医科大学にて開催されました。この会は、東京女子医科大学脳神経外科、筑波大学脳神経外科、セルメディシン株式会社が中心となって立ち上げた研究会で年々参加医師の人数が増えてきています。

免疫療法なんてまったく効かない、と一笑に付される傾向が強かったものが、最近、ペプチドワクチンやがん抗原タンパクワクチンといった“がんワクチン”の登場により、そしてこれらが大学の臨床試験で広がりを見せていることなども手伝って、免役療法の認知度や受容度・理解は以前よりずいぶん高くなってきています。しかしながら、世の中“免疫”という言葉を利用した“がんビジネス”がはびこっているコトは皆さん周知のとおりで、そうした中で、いかに正確な情報を選択し、治療に取り入れるかということは非常に大切なことです。

今回、少しでも患者さんの情報選択の一助になればという思いで、自家がんワクチンについての簡単な解説と、本研究会で提示された最新の知見・展望を紹介します。

「自家がんワクチン療法」とは

自家がんワクチン療法は、理化学研究所ジーンバンク・細胞開発銀行に蓄積された高度の培養技術を生かした細胞療法の開発に端を発し、東京女子医科大学、筑波大学の研究グループでの臨床試験を経て現在に至っている治療法です。理化学研究所については、ご存知のように、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、生物学、医科学などにおよぶ広い分野で研究を進めている、世界最先端の研究機関です。

図1は、自家がんワクチン療法の流れについて簡単に見たものです。

人間の身体の中で、がん細胞を殺すのに活躍しているのがリンパ球ですが、なかでも中心的な役割を担っているものの1つがCTL(細胞傷害性Tリンパ球)です。自家がんワクチン療法は、このCTLにがん細胞を敵と認識させて攻撃するように教育して、がんをやっつけようという治療法です。

もう少し説明を追加すると、手術によりがん患者さんから摘出したがん組織中のがん抗原を目立つように手を加えてワクチンとし、がんに対する免疫力を高めてがんの治療を行うというものです。がん抗原とは、がん細胞の表面にある、「わたし、がん細胞ですよ~」という目印のようなものとイメージしてください。ですから、「わたし、がん細胞ですよ~」という目印を持ったがん細胞だけをCTLに殺させようという仕組みになります(図2)。

また、本法は、患者さん自身の体内にあったがん組織をがん抗原の原材料として使用するため、がん細胞の中のがん抗原のほとんどすべてが体内免疫系の識別対象になり得るというのが大きな特徴であり、他のがんワクチンなどとの決定的な違いであるとともに魅力です(図3)。

さて、ここで疑問が……。生標本(なまひょうほん)をイカ、ホルマリン固定標本をスルメに例えて、そもそもスルメからワクチンができるのか?と感じている医療関係者は少なくありません。その疑問は当然といえば当然です。そこで、ホルマリン固定標本から本当にがん抗原を得ることができるのかという問いに対して補足しておきます。

細胞性免疫反応におけるがん抗原の本体は、がん抗原タンパク中のアミノ酸残基数9~15個のペプチドからなります。そのアミノ酸残基の中でホルマリンと反応する官能基がないペプチドの場合は、長期ホルマリン漬けに対して安定で、大部分は壊れずに残存しています。つまり、スルメの中でもイカの中と同じ状態でがん抗原はしっかり残っているというわけです。そして、実際にこれらのペプチドは抗原提示細胞の中でうまく処理され細胞表面に提示されて、十分がん抗原として働くことが科学的に証明されました(Nature Medicine,1:267-271,1995)。

結論:ホルマリン固定標本から、ちゃんとワクチン作製は可能です。そもそも、ホルマリン固定標本からがんワクチンがつくれるなど誰が考え得たでしょうか?誰も予想すらしなかったからこそ、2007年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で世界の研究者に驚きと衝撃をもって高く評価されたのです。まさに“ものづくり日本”の真骨頂です。

神経膠芽腫(グリオブラストーマ)に対しての臨床試験が進む

2011年、東京女子医科大学と筑波大学の研究グループから、神経膠芽腫(グリオブラストーマ)に対する自家がんワクチン療法についてのフェーズⅠ/Ⅱ前向き臨床試験の結果がJ Neurosurgery(115:248-55,2011)という医学誌に報告されました。J Neurosurgeryは門外漢の私でも知っている有名誌です。

神経膠芽腫は、一般の標準治療での全生存期間、無再発生存期間の中央値がそれぞれ14.6ヵ月、6.0ヵ月であることに対して、自家がんワクチン導入症例では、全生存期間21.4ヵ月、無再発生存期間7.6ヵ月となっており、自家がんワクチン療法導入症例は、全生存期間、無増悪再発期間のいずれにおいても標準治療を上回る成績が得られています。

ここで、特筆すべきは、神経膠芽腫に対する免疫療法は現行治療の中で併用して行いうるということです。神経膠芽腫で使用される経口抗がん剤TMZ(テモゾロマイド)は白血球減少などの血液毒性が比較的少ないため、神経膠芽腫の診療領域では現行治療に免疫療法を併用する環境が整いやすく、今後は全国レベルで神経膠芽腫に対する臨床試験が拡がっていくことでしょう。九州では、まず大分大学脳神経外科で神経膠芽腫に対する自家がんワクチンの臨床試験が始まりました(図4)。

自家がんワクチン症例はがん細胞の多様性に対応する治療

がん細胞の“多様性”というのをご存知でしょうか?臨床がんは、1個のがん細胞が身体の中に定着し、そのがん細胞が分裂増殖していくことから始まるのですが、もともとがん細胞自体、遺伝子の壊れた細胞のため、分裂増殖していくうちに細胞のミスコピーが起こり、遺伝子の壊れ方がますます進むことになります。遺伝子の壊れ方の程度が進むと、そのがん細胞は別の性質を表現する細胞へと変貌します。

この過程を繰り返していると、最初はひとつのがん細胞から始まっていながらも、増殖し、臨床がんとして捉えられるようになってきたときには、がん病巣は単一の性質からなるがん細胞の集まりではなく、さまざまな性質のがん細胞からなる塊(かたまり)になっているのです。これをがん細胞の“多様性”といいます(図5)。

がんはこの多様性-いろいろな性質の細胞の集まり-故に治療が難しいのです。多様性はがん治療・腫瘍学の基本であり、いかにがん細胞の多様性に対応していくかということが真に問われていることなのです。

ここで、症例を見てみましょう。
膵頭部がんに対して膵頭十二指腸切除術を施行した46歳の男性です。術後、上腸管膜動脈根部リンパ節に転移を認めたため、補助化学療法としてジェムザール(1,500mg/body/隔週)を開始しました。この患者さんは、体質的にジェムザール投与に対して、骨髄抑制をはじめ、副作用をほとんど認めなかったため、自家がんワクチン療法との併用が可能と判断し、ワクチン接種を行いました。ワクチン接種後もジェムザール投与は継続され、4年が過ぎました。画像上、評価病変の上腸管膜動脈根部のリンパ節はほとんど変化せず、むしろ少し縮小傾向にあります(図6)。

本症例は、当初はジェムザールが病態コントロールに寄与していたのであろうと考えられていました。なぜかというと、なんやかんや言いながらも抗がん剤は効くときは効くからです。しかしながら、前述のごとくがんはさまざまな性質の細胞からなるために、1種類の抗がん剤で何年もがん全体をコントロールすることは一般には不可能です。そうすると、本症例のように、ジェムザール1剤のみで4年の長期に渡り、病態がコントロールされているという場合をどのように理解・解釈したらいいのか?ということになります。

ここで、自家がんワクチン療法導入の既往がクローズアップされてきます。というのは、患者さんのがん組織そのものから作成する自家がんワクチンの仕組みは、自身のすべてのがん細胞のがん抗原に対して作用するものであるため、同法はがんの多様性に対応できる治療法であることを意味しています。

要するに、本症例のような経過でがんの制御が長期になされている場合、自家がんワクチン療法により、がんの“多様性”への対応ができているために病態の安定・維持ができていると考えられるのです。

補足

その他、紙面の関係上詳細は割愛しますが、参考までに当院での自家がんワクチン施行症例の
検討により引き出され、本研究会にて私が口演した内容を列記しておきます。

(1)単独使用ではなく他治療併用の中で効果発現を期待したい。
(2)できれば再発治療よりも補助療法としての導入を勧めたい。
((1)、(2)は免疫療法全般に言える)
(3)過去の論文にもあるが、原発性肝臓がん治療後の補助療法としての使用は奨励したい。
(4)放射線治療を併用することで治療効果を引き出せる症例が存在する。
(5)乳がん術後補助療法として導入するという選択肢はありかもしれない。

月刊誌「統合医療でがんに克つ 2012.1.vol.43」より

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